2016年2月24日水曜日

英語学習ブレイクスルーその1(リスニング編)

英語を学習し始めたとき、一生懸命続けていると「英語がとつぜん聞こえ始めるときが来る」「ある日急に英語が口からすらすら出てくる日が訪れる」、これをブレイクスルーというのだと聞いた。NHKの有働アナウンサーもエッセイ集の中で、NY勤務時代に仕事をしない部下にキレた瞬間に話せるようになったと書いている。

結論から言うと、自分にはそんなブレイクスルーなどなかった。もしかしたらまだ来てないだけなのかもしれないが、とりあえず英語での日常会話は何とかなっているし、最近ようやくテレビの英語ニュースをつけっぱなしにしながらキッチンで家事をしていても、そこそこ聞き取れるようにはなってきた。

大学生時代は英語の単位を取るのに苦労した。司法修習生のときに英語を習慣的に学習するようになった。アルクの入門用教材はリエゾン(音の崩れ)を理解するのに役立った。ベルリッツにも1年間通った。梅田駅前ビルにある英語屋のおかげでTOEICでは高得点が取れるようになった。子どもが生まれて数年間中断してたけど、NYに行ったときはできるだけ妻に頼らず自分で話すように心掛けた。留学が決まったあと半年間は日米英語学院梅田校に通い詰めた。

途中中断期間含めて足かけ十年間の学習を経て念願の留学が実現し、外国人向け英語学習クラス(ESL)に参加した。初日、ヨーロッパから来た連中はペラペラしゃべっているのに、自分は授業内容についていくどころか先生の説明すら聞き取ることができない。絶望的な気分になった。
先生は「そのうち耳が慣れるよ」と言ってくれた。実際、2週間ほど経ったころ、その先生の話していることは聞き取れるようになった。ヨーロッパ系のクラスメイトたちが流暢なのは、連中はときどき英語と同じルーツを持つ母語(フランス語やスペイン語)の単語を交ぜて誤魔化しているせいだということも、その頃気付いた。

大学の授業が始まってみると、先生たちの講義内容は意外と理解できた。彼らの講義は発話も論理展開も明瞭。たぶんアメリカの大学の授業は留学生も多数いることを前提としているからだろう。しかし問題は、あちらの授業は講師の説明は長くても冒頭の30分程度で、残りの時間はすべて学生同士の議論に当てられることだ。相手の口元を凝視したり、目を閉じて耳だけに集中したりといろいろ工夫したけど、クラスメイトたちの発言を聞き取ることはなかなかできない。とても議論に参加するどころではない。結局、議論に参加するほどのレベルには達しないまま、後期セメスターも終了してしまった。

その間、何らの進歩もなかったわけではない。少人数ゼミでの討論なら、かろうじて学生たちの話していることは何となく聞き取れるようになった。アメリカ人の友人同士の雑談は聞き取れないけど、僕ががその会話に参加していることを相手が意識してくれていると、理解できないことはほぼなくなった。外国人の存在を意識するとき、正しい文法でかつ平易な単語を選びながら話すことになるからだろう。

正確な文法と平易な単語を使って話されると、なぜ理解しやすくなるのか?それは予測が効くようになるからだろう。人間が会話をするとき、かなりの部分を予測で補っていると言われている。僕は妻が何を言っているのか分からないこと、聞き取れないことがよくある。会話に脈絡がなく、日本語の文法も無視しているからだ(むしろ母語ではない英語で話してくれると彼女の話は明瞭で文法も正しく、よく理解できる)。日本語での会話ですら、予測がつかないことはやはり聞き取ることができない。外国語の習得で大事なことは予測できる範囲を増やすこと、そのために最も重要なのは発音、ボキャブラリー、文法、この3つであると留学でつくづく実感した。

発音は本当に苦労した(している)。僕の場合なまじっか単語もアルファベットもカタカナで覚えていたので、その記憶をいったん消去した上で、新しくABCからXYZまでの正しい音をインプットする必要があった。一から覚えるのの倍の手間がかかるということだ。アルクの教材を購入したときにそのことに気付いて以来、意識的に追求してきたつもりだったが、いざ留学してみるとトレーニングが全く足りていなかった。それを克服するために正しく発音発話する練習が最も効率的だったことは、以前のブログに書いたとおり。

最初のESLクラスで使用されたテキストは市販のものだったけど、これがかなり充実していた。日本の大学受験程度では要求されないレベルの単語が、たくさん出てきて苦労した。けれど、しばらくアメリカで暮らしているうちにそれらが日常生活に必要な程度のボキャブラリーであったことを理解した。このテキストは毎章のテーマが興味深くて、新しく覚えた単語がそのストーリーと関連づけられて記憶された。例えばjeopardy。テキストでは、恐竜の「絶滅」という意味で出てきたが、後に新聞を読んでいるうちに社会的あるいは政治的な文脈で「危機に瀕している」「崩壊する」という意味でも使われることを知った。ベルリッツに通っていたときにカウンセリングしてくれた事務職員さんが、日本の中高大学で習う単語数は英語を使えるようになるにはあまりにも少なすぎると教えてくれたことがあった。自分の予測能力の低さは一つにはボキャブラリーが少なすぎることに起因していると、留学してからまざまざと実感した。

文法学習は、人気コメディドラマBig Bang Theoryに依るところが大きかった。例えば、ペニーの父親に嘘をついていたことがばれてレナードが “I was about to tell you ~"と言うシーン。be about to ってこうやって使うんだと思ったことが印象に残っている。単なる文法知識として頭の中にあった時制の使い分けや仮定法の使い方なんかが、具体的な状況との関係で理解できるようになり、それゆえ記憶に定着していった。もちろん、同じシーンを何回も何回も繰り返し観た上での定着だ。分からない単語が出てきたときはポーズして辞書を引いた。気になったセリフはシャドウイングできるまで何度も巻き戻した。それらを納得いくまで繰り返した上で、おさらいのために通しで視聴した。こうした作業を飽きずに出来たのは、何度観ても面白い優れた脚本と俳優たちの演技のおかげだ。ちなみに、ヒロインのペニーを演じるKaley Cuocoは口の動きが大きく発話も明瞭なので、彼女のおかげですいぶん発音の勉強にもなった。

字幕なしでは聞き取れない英語のセリフを、英語字幕をつけるだけで聞き取れるということがよくある。先に目で文章を追うことで予測が付くようになるからだろう。帰国してから映画(レ・ミゼラブル)を見に行って面白かったのが、この現象が英語字幕のみならず、日本語字幕でも起こることだ。日本語字幕をさっと読んで文脈を理解するだけでも予測が効くようになって、耳から入ってくる英語が聞き取れるようになるということなんだろう。

帰国してからケーブルテレビに加入し、海外ドラマの視聴が趣味の一つになった。日本語字幕を読みながら聞き取れる英語の範囲も少しずつ拡大し、最近は字幕翻訳者さんの工夫に感動することも少なくない。Big Bang Theory や Game of Thronesなど留学中に観ていたドラマがブルーレイになると必ず購入し、英語字幕で観ている。こういったことを帰国後も2年3年と積み重ねてきた結果、冒頭に書いたとおり、最近ようやく英語ニュースが家事をしながらでも耳に入ってくるようになってきた。ブレイクスルーは未だに訪れていない。




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